2013年12月25日水曜日

ツンベルク (その1) 『日本紀行』と『日本植物誌』

美しい実をつける植物について このブログの記事を書いていると、それらの多くが 日本に赴任したことがある スウェーデンの植物学者 Thunberg により命名されていることがわかりました。

この Thunberg という名前については、元々がスウェーデンの人名であるため、「トゥーンベリ」、「ツンベルク」、「ツュンベリー(いったい、どう読めというのでしょう?)」など、いろいろな読み方をされています。
紛らわしいので、一般的と思われるドイツ語風の読み方「ツンベルク」に統一します。

ツンベルクはスウェーデンに帰った後、この時代の人の常として、旅行記を出版しています。
それが Resa uti Europa, Africa, Asia, förrättad åren 1770-1779  (1788) です。


 Resa uti Europa, Africa, Asia  (1788)

上記のリンク先は見やすいのですが、残念ながら第1・2巻だけの所収ですので、日本滞在記が入った全4巻版をご覧になる際には、以下のリンク先をご覧ください。

 Google books  Resa uti Europa, Africa, Asia  (1788)


この書の日本に関した部分が 翻訳出版されています。
以下の本です。

 山田珠樹(訳註)『ツンベルグ日本紀行』(駿南社) 昭和3年〔1928〕

「ツンベル」と名前の最後が濁っているのは、元々のスウェーデン語からフランス語に翻訳されたものを重訳したことに関連しているのでしょう。
重訳であることは、訳者の山田がこの書の冒頭に置かれた「序」のはじめで述べています。
訳・註を行った山田珠樹については Wikipedia に詳述されています。

 Wikipedia 山田珠樹

訳・註を行った山田珠樹による「序」は一読に値します。
ツンベルクについて細かに述べており、日本に来たのもリンネの勧めがあったからだと書いています。
リンネと日本にも、こんなつながりがあったとは...

➜ 訳書『ツンベルグ日本紀行』(1928) 見返し (国立国会図書館)

この本は、すでに版権が切れているため、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで読むことができます。
以下は、奥川書房版(1941年刊行)ですが、版組等は駿南社版とほとんど変わるところがありません。
グレイスケールでスキャンしてあり、フルカラーのものより読みやすいようです。


駿南社版と奥川書房版の奥付を載せておきます。
いくつかのことがわかるでしょう。

『ツンベルグ日本紀行』 奥 付  左: 奥川書房版  右: 駿南社版

以下の本の P.95 には、奥川 榮についての記述があります。

➜ 反町茂雄『蒐書家・業界・業界人』(1984)八木書店

画像下の文字部分をクリックしてみてください。
Google books が開きますので、次に 左側のメニューにある検索ボックスに「奥川」と入力して 検索ボタンをクリックしてください。
奥川榮に関して書かれたページが開きます。

余談ながら、この本はアーネスト・サトーの古書蒐集に関する記述から始まっており、大変面白い本です。


ツンベルクによる日本に関係する本として紹介する2冊目は Flora Japonica (1784) (『日本植物誌』)です。
ラテン語で書かれていますが、多くの部分は植物の一覧であり、図も入っています。

東京大学農学部図書館所蔵資料 Flora Japonica

上は実物の写真です。
「名誉教師 ヤンソン氏寄贈」と寄贈者を示す赤い印が押されていますね。
本来のラテン語には「J」の文字がないので 「I」を使って「IAPONICA」と綴られています。
この Flora Japonica については、以下に詳しく書かれています。

 ➜ 東京大学農学部図書館所蔵資料 Flora Japonica の解説

この書物も Google books 等において読むことができます。

Google books FLORA JAPONICA

Google books には、複数の PDFファイルがアップされています。
暇があったら、比較してみたいと思います。

 Google books  FLORA JAPONICA (複数のコピー)

ツンベルクは江戸に向かう途中で立ち寄った箱根で多くの植物を観察しています。
それについてまとめた労作が以下の論文です。
神奈川県 生命の星・地球博物館の3名の学芸員によるものです。

 ➜ 神奈川県 「ツュンベリーの日本植物誌に記録された箱根産植物」


なお、ツンベルクの50年ほど後には、有名なシーボルトが来日しています。
シーボルトによる  Flora Japonica (『日本植物誌』) は京都大学の電子図書館で見ることができます。
図版はツンベルクのものとは比較にならない美しさで、半世紀の時の流れを感じさせられます。

➜ シーボルト『日本植物誌』(京都大学図書館)


➜ ツンベルク (その2) 邦訳『日本紀行』の序文